志賀直哉邸跡
瀧井幸作仮寓跡(寿古墳公園)をあとにしてハケの道をまた自転車でゆっくりと進んでいくと、
やがて『志賀直哉邸跡』に到着する。
緩やかな階段を上ると、
いくつかの作品が姿を現す。
平日と土・日では景色が少し変わるのは、
志賀直哉の書斎が解放されているかどうかの違いだ。
書斎の中が見られるのは風通しの為の土・日だけで、
しかも10~14時の間というとても短い時間だ。
藤俊文/中津川督章 – 鷹大工へのオマージュ
その書斎が展示会場になっているというのはなかなか面白いけど、
それは展示されている作品を見られる時間は少ないということでもある。
それが工藤俊文(写真)/中津川督章(彫刻)氏の作品、
『鷹大工へのオマージュ』だ。
この書斎は志賀直哉本人が設計に深く関わり、
我孫子の大工・佐藤鷹蔵により建てられたもの。
それで、
『鷹大工へのオマージュ』なわけだ。
いつもは何もない書斎が、
作品が展示されることで景色が変わっている。
展示されている作品だけではなく、
この書斎と作品が一体となって1つの作品みたいになっている。
書斎のあちこちから覗くと、
違った角度で作品を見ることができる。
それぞれ違う感じに見えるのが面白いのだが、
書斎も同じように違う感じになってやはり全体で1つの作品という感じだ。
土・日のきわめて短い時間しか見られないのが残念だが、
上手く日時調整をしてでも見ておきたい。
それにしても、
この作品はこの書斎に相応しいと見た瞬間から思ったのは何故なんだろう?
たまたま持ってきた作品を置いたからではないからなのか、
妙に過ぎるくらいしっくりくる。
鷹大工こと佐藤鷹蔵
ちなみにこの鷹大工こと佐藤鷹蔵は、
旧村川別荘の新館に置かれているバーナード・リーチの椅子なんかもこしらえている。
他にも柳宗悦の書斎や、
杉村邸の澤の家や建てつけの家具なども彼の手によるものだ。
この人は志賀直哉の作品に何回か登場していて、
例えば『和解』の『出入りの大工』がそうだし『雪の遠足』の『S大工』もそうだ。
楚人冠の随筆、
『鷹大工』(楚人冠全集巻1)でも紹介されている。
彼はどんな安普請を頼まれても、
何處にか、
あの男がこしらへたヾけのことはある、
と言はれるやうな所をこしらへなければ承知しない。工事が後れても相手からけんつくを喰はうが、
『鷹大工』(楚人冠全集巻1)
自分では手間を喰ひ込まうが、
そんな事には委細頓着しない。
大工というよりも芸術家だったんだろう、
そんな気がする。
というわけで…
今回の『我孫子アートな散歩市』の作品は、
志賀直哉邸跡のK1 – 工藤俊文/中津川督章 – 鷹大工へのオマージュ。
いつもの志賀直哉邸跡も、
アートによって景色が変わっている。
特にこのいつもはがらんとした書斎が、
中に展示されている作品によって違う世界になっている。
平日に行っても見ることができないのが残念だけれど、
そのレア感は悪くない。
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